2019年12月25日

クリスマスの男
今から9年前のクリスマスの出来事を、私はこの時期が来るたびに思い出す。
2010年12月25日、私は鉱山調査の為に黒保根の山奥に訪れていた。この日も単独での探索である。世間はサンタやら恋人やらで浮き立つクリスマスの土曜日であるが、ボッチの私には特段関係が無く、単なる休日の一コマでしかない。いや、もしかしたらクリスマス特有のキラキラした街の様子が目に染みて、誰も居ない山に逃げてきたのかもしれない。
とにかく、鉱山調査の為に電波も届かない林道の終点に車を停めて、落石だらけの未舗装林道を小1時間歩いて、ようやく第一目標である廃林道が交錯する三差路の広場に出た。右手に行けば沢を渡って植林された針葉樹林を九十九折りに上って支流をつめていく。私の目的地は左手の本流沿いの荒廃した、オフロードバイクでも変態ジムニーでも走破不可能の廃道。入口にはチェーンが張られ、国有林の為か単純に危険だからか定かでないが、仰々しく「立入禁止」と大きな看板が掲げられていた。良し悪しは置いといて自己責任の名の下に、探索の為に私はチェーンを跨いで立入禁止の廃道に踏み入った。そこからの道は見事に荒れていた。巨石が幾重にも行く手を塞ぎ、それを一つ一つえっちらおっちら回避しながら遅々として進まぬ道を上り詰めていく。目標の鉱山は沢沿いの廃道を終点まで歩き、正面の山を尾根付近まで上ったその先にある。地図を見るとこの歩きにくい廃道はまだまだ続くようだった。にしても、よくもまあこんな場所で鉱石を採掘してたもんだ。輸送を考えると果たして採算が合うのだろうかと、人知れぬ山奥で余計な世話な心配をしながら歩いていた。ガレガレの廃道を辛抱して歩き続け、多少歩きやすくなったところで異変に気が付いた。進行方向から薄ら煙の臭いがする。この先は深い山が延々と続いて民家なんて数十キロありゃしない。だとしたら山火事か!? 確かに空気は乾燥しているが発火源なんてあるのだろうか。なにせここは登山道もないような地味でマイナーな山奥なのだから。恐々として臭いの方向へ進むと、緩いカーブを越えたところで煙の実態を捉えた。切り通しになった廃道の岩壁の沢側に白い煙が漂っている。出所は道からはちょうど岩壁に囲まれ見えない位置であり、廃道を外れて沢へ降りて行くと驚いた。岩の重なりが解けた先に見えたのは、一人の怪しい男が焚火をしている姿だった。私は怯んだ。半径数キロは誰も居ないと思って疑わなかったドマイナーな山奥で人に出会う事自体がまず恐怖である。しかも立入禁止の区域であり平坦な道もなければ登山道もないような場所。渓流は禁漁期で釣り師も入らないはず。そんな場所でこの男は一体やってるんだ。そしてこいつは何者なんだ。相手から見たらこちらも怪しい人間であるため、ここはお互いに安心を得るべく「こんにちは」程度の挨拶を交わそうと考えた。そうして更に距離を詰めるが、謎の男は一向に私を見ようともせず、ただじっと焚火だけを見つめていた。距離的には確実に私の存在に気が付くはずである。背筋に寒気が走る。得体の知れない恐怖を覚えて、私は踵を返してその場をさっさと離れた。謎は残るが取り敢えず山火事の心配は無いため、本来の目的である鉱山探索を進めることにした。しかしやはりあの男の事が気になる。格好はアウトドアウェアと呼べないような小汚い地味な作業着風の服。荷物は何一つ見当たらず、ただただ焚火を見ていた。年齢は若くも無いが中年とも言えない中途半端な年頃、顔はハッキリとは見えなかった。得体の知れない人間に途方もない気持ち悪さを感じる。気味が悪い。気味が悪いが、クリスマスの日を山奥の岩陰で過ごす世捨て人の姿に、同じくクリスマスに一人で山奥で過ごす私の姿を重ねて妙な親近感と安心感を覚えた。探索が終わるまでずっと、煙の臭いが鼻の奥に染みついて、延々とあの男の残像が脳裏にもやもや浮かんでいた。

あの男に出会ったクリスマスが終わって正月が来て、冬が終わり新芽が萌えて新たな季節となり、黄緑が濃い緑に変わる間にあの男の事なんて微塵も忘れ去ってしまうのだが、葉が黄や赤に変わり、樹木の色彩が足元に落ち、季節が一巡りしてクリスマスの頃になると何故だがあの男の事を思い出してしまう。幸せに溢れた世間から離れて人気のない山に逃げ込むあの世捨て人の姿を。
あの男の正体は、未来の自分自身だったのではないかとさえ思う。もちろん本当に未来から来た自分とは思っていないが、そう遠くない未来の自分の姿を映し鏡のように投影してたと思えてならない。年々私はあの男に近づいている。何なら、あの日あの男が焚火していた同じ場所で、ひとりで焚火して一夜を過ごしたいとさえ思っている。誰も来ない山奥で、何も持たず、まんじりともせず焚火を弄って過ごす時間は何ともロマンチックではなかろうか。ましてやそれがクリスマスなら堪らない。ただ、あの男の歩く道が正しいかは分からない。普段から喧騒に背を向ける社会不適合の私は、あの世捨て男の過ごす時間に憧憬の念を抱きながらも、一方でそんな時間を過ごしたくないとも思う。いつか、あの男を思い出すことのないクリスマスが送れたら、私は人並みに生きられる気がする。

2019年12月25日22時






コメント(8)

1:

ジャン

:2019/12/29 17:46:36
何者でしょう?

確かに不気味です。他人を寄せ付けないようなオーラがあったと思います。

山の使いでしょうか。「ここから先に入るな」とでも。

自分は富岡の高林城跡を下山した際に道に迷い、途中で「人が住んでいる形跡」を見たことがあります。
燃えた痕、寝た痕がありました。

2:

もぎ

:2019/12/29 20:01:40
>>ジャンさん

読みにくい文章ですが読んで下さりありがとうございます(笑)
あの男は今でも謎です。まさか人が居る場所ではありません。

廃墟とか行って人が住んでた新しげな形跡があると震えあがります。絶対に会いたくないですね・・。

3:

yan

:2019/12/29 20:46:03
まあ・・・ お互い様といえばそれまでですな(笑)

だって実際は変なメンズがニヤニヤしながら
近づいてきてヤッべえなんでコッチ来るの無視無視!

とか思ってたかもしれないし。


オレが山奥一人焚火していて初見のか~み~さんが
単独で近づいてきたら無視しますよ多分笑




4:

もぎ

:2019/12/29 23:05:01
>>yanさん

相手も相当怖かったと思います。
いや、私はニヤニヤしてませんでしたけどね(苦笑)
初見のか~み~さん、同意です(笑)

では、明日の探索お気をつけて!

5:

まさーる

:2020/01/10 18:44:20
文章が面白い。
私という社会に疲れた男が謎の山男に遭遇する話。
単に山を歩いていたら変な人がいたよという話なだけなのに、惹きつけられる面白さがあった。終わり方も切なさを感じよかった。

6:

もぎ

:2020/01/10 23:00:14
>>まさーるさん

文章で気持ちを伝えるのはなかなか難しいことですが、そう言って下さると嬉しい限りです。
精進します。

7:

とある群馬県民

:2020/06/11 11:08:47
もぎさん、はじめまして。
いつも楽しく拝見させていただいてます。
これからも楽しい記事を心待ちにしております。
さて今回の謎の男性ですが、すばり地下住人の方と思われます。
何を言ってるのか理解できないと思われますが、気が向いたら以下のサイトでまずは地下住人で検索して記事を読んでみてください。
https://blog.goo.ne.jp/adoi

8:

もぎ

:2020/06/12 23:09:48
>>とある群馬県民さん

コメントありがとうございます!
地下住人ですか・・!!
その発想はありませんでした。
いろいろ勉強させていただきます<(_ _)>



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