2019年7月31日

別府湯治の旅⑥
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降雪による一部バスの運休により観海寺温泉と堀田温泉を諦めた私は、鉄輪から一転して街中へ、バスで別府駅までやってきた。別府駅からは電車で2駅の亀川駅には別府八湯の一つ、亀山温泉がある。電車で亀川駅まで来ると頭上には青空は見え始め、路上の雪はすっかり消えて、濡れたアスファルトが乾かし始めていた。






一昔前は栄えていただろう商店の連なるメインストリート、自動車社会の今となってはただただ狭いだけの幅員の旧道は、いかにも地方の小さい商店街といった様相だった。いや、商店街といいつつロードサイドには民家ばかりで商店なんて殆どない。駅に展示していた湯治場として栄えた往時の写真が想像できないほど静かな無機質な灰色の町になっていた。その町のほぼ中央に位置する筋湯共同浴場、筋湯を亀川温泉での一湯にしようと目指して歩いているとそれは見つかった。しかしその外装は異質と言う他なく、不自然な緑や赤や黄のカラフルな色彩をした掘っ立て小屋は、決して灰色の町に溶け込むことのなく佇んでいた。






例の如く、入り口で賽銭を入れて薬師様に拝んでから湯に浸かる。湯は特徴の薄い単純泉ではあるが、内装外装の大胆な緑色したコンクリ壁面が目につく。風情ある温泉とかではなくいかにもジモ専風の独特な手作り感のある色使い。足元のスノコは収まりが悪く、体勢を変えるたびにガタガタと動いて気になる。だがそれらにネガティブな印象を受ける事無くむしろ親近感を覚えた。私は湯舟の縁に頭をもたげて微動だにせず、湯に溶けて、町に溶けていった。誰もいない独り占めの浴場は別府八湯の中でも上位の居心地の良さを感じた。
筋湯に満足して駅に戻ると、降雪で運休になっていたバスが復旧したことを知った。今日は突然の雪により予定はめちゃくちゃ。行きたかった温泉のは殆どを巡れていない。時刻は既に15時を回っている。バスは動いているが本来行きたかった観海寺温泉や堀田温泉に行くには時間が厳しい。さてどうしよう。しかし私は明日には別府を発たねばならぬ身。今行かなければもう行くチャンスはないだろう。後悔したくない。私は意を決し、観海寺温泉行きのバスに乗り込んだ。






観海寺温泉も堀田温泉も小さな温泉地であり、バスで近くまで行けたとしても温泉までは数十分歩く必要がある。別府駅からバスで山の方へ行くと、溶けていたと思っていた雪がこちらでは薄く降り積もっていた。純白の新雪に私の足跡が一筋、圧して黒くなっていた。






観海寺温泉の一湯は向原温泉と決めた。地図を見ながら公民館のような小さな共同浴場を住宅街の中からやっと探し出して、番頭さん100円を支払い館内に入る。脱衣所からは半地下の湯舟を見下ろす事ができて、角の丸い四角形の湯舟に浸かる老人が2人、タイルの上で身体を洗う老人1人を確認できた。時刻は16時、共同浴場は常連客で賑わう時間帯。私が脱衣所に来たのに気が付いた湯舟の老人が「こんばんはー」と小気味の好い挨拶を発した。私も愛想の良い声で「こんばんはー、失礼します」挨拶をした。私は余所者、服を脱いで湯舟に降りて、常連さんの邪魔にならないように浴室の端っこに陣を取った。湯が跳ねないように撫でるような掛け湯をした。その頃には湯舟は無人になっていて、髭剃りを始めた老人と交代にするようにいそいそと湯舟に浸かった。ここも泉質は単純温泉であり特筆することはないが、本質はやはり地元の方が日常的に使用する共同浴場、居心地の悪さを勝手に感じてはみるがよくありがちな敵意や警戒などの視線を一切感じる事無く、余所者に対する許容性を高さをありありと思い知りながら快適にお湯を楽しむことができた。これも湯めぐり人口の多い温泉県大分の特色なのだろう。






観海寺温泉を出ると大粒の雪が降っていた。私は傘をさして、火照った身体を冷やしながら、白く染まった田舎道を歩いていく。もう誰も歩いていない。目指すはここから更に山側に位置する堀田温泉。






堀田温泉は別府八湯の中でも最も長閑なエリア。山村風景の中に数える程度の湯気が立ち上がり、その源泉を授かる数件の温泉宿がポツリポツリと営業している。中でも日帰り入浴施設は一層少なく、時間帯的に入れるのは市営堀田温泉だけだった。石鹸でもシャンプーでもリンスでも何でもありの設備が整った温泉施設であり、逆に言うとどこにでもありそうな特徴の薄い温泉だ。連続の入浴疲れもあってか、別府旅行で初めてのカラスの行水だった。しかしながら交通機関の乱れにより観海寺温泉や堀田温泉を一度は諦めた身であり、この辺境の温泉地まで来られて、味わえたことは大きな達成感と幸福感を抱いた。






帰りは鉄輪の宿まで歩いて帰ることにした。距離があるのは承知の上、湯冷ましの意味もあるが、旅の終わりが見えてきた今となっては「もう少し雪の別府を見ていたい」という気持ちが正直なところ。高台からは別府の街並みや、薄っすらと別府湾まで望むことが出来た。






すっかり湯冷めしながら宿に到着して、名残惜しくも別府で過ごす最後の夜が遂に訪れた。すっかり自宅のような居心地の良さを感じている宿もあと少しでお別れ。






何度も入った宿の湯も最後の入浴。いい時間になった薬師の湯は無人だが、薬師様が湯舟を見守ってくれている。有難くなって手を合わせて、悔いの無いよう精一杯味わいながら身体を温めた。






最終日になって新発見、薬師の湯の端の小扉を開けると蒸し湯が出現した。まだまだ新発見に満ちていた事に驚きながら備え付けのランタンを持って蒸し湯の中に入ってみた。だがしかしぬるいし狭いし暗いし、気分だけ味わって早々に退散。
結局、別府八湯のうち7湯は巡ったが浜脇温泉には時間の都合で寄れなかった。明日は早々に福岡へ向かう予定。折角だから朝一で浜脇温泉に立ち寄って、別府八湯制覇としよう。






余り物の食材を適当に地獄蒸しにして夕食とした。地獄窯も、今日の夕飯と明日の朝食で使えば、この先数十年は使う機会はないだろう。そう思うと無性に愛おしくなって窯の蓋をパカパカしては眼鏡を湯気で真っ白にさせていた。






双葉荘での三泊は新鮮で刺激的な体験ばかりでどれも楽しい思い出ばかり。すぐに寝てしまうには惜しい。焼酎をお湯割りにしてチビチビ飲みながら、小説を読んで静かに夜は更けていく。寝たら宿を発たねばならぬ悲しみが私を襲った。朝なんて来なければいいのにと願ってみるも時計は残酷に回っていく。それでも明日は来る、明日も楽しい日が来るのだと自分に言い聞かせ、酒を飲み続ける。たまに地獄窯までお湯を汲みに行きながら酒を飲み続けて、いよいよ酩酊状態で布団にダイブ。別府最後の夜は泥のように眠った。

つづく






コメント(2)

1:

ジャン

:2019/08/06 06:01:08
新婚旅行が九州だったのです。
鹿児島から宮崎ルートで北上して別府温泉にも泊まりました。そこらじゅう真っ白でしたね。

こないだ榛東村の自販機に行って手巻きタバコ買おうとしたら稼働してませんでした。
お金戻って来ちゃいました。
挿入口も口も蜘蛛の巣が・・・。

2:

もぎ

:2019/08/07 22:22:29
>>ジャンさん

九州新婚旅行羨ましい!!
九州は何喰っても美味くて驚きました。

ああ、手巻きタバコは駄目だったんですね・・。
後でHPの方も追記しておきます。
確認ありがとうございます。

それはそうとして、先日は嬬恋旅行をされてたんですね!
私もちょうど昨日嬬恋村をバイクで駆け抜けてました。
嬬恋村のキャベツキムチ、そのうちBスポに掲載予定です。



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