2019年6月24日

別府湯治の旅③
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別府の二日目の朝がやってきた。この日は別府を満喫する為にあちこちの温泉に入るつもりだ。まずは朝風呂、別府で最古の歴史を持つ「谷の湯」にやってきた。一階が温泉、二階は民家の造り、温泉の扉の前の紙には、料金は民家に伸びてる筒に投入するよう書いてある。早速筒に150円を投入すると「シャーー」と硬貨が筒を転がる音がして「チャリン」と底に落ちた音がした。すると居間の方から「おはようございます」と声がした。ピタコラ装置のような仕掛けにびっくりしながらも「おはようございます」と挨拶をして湯舟に向かった。






別府の共同浴場の特徴として入口ないし浴室に仏さまが鎮座する。そして湯につかる前に仏さまに拝むのがマナーだ。もちろん明記されてる訳でないけど常連客がそうやってるから私も郷に従ってそうする。谷の湯においてはビートたけしの顔をした不動明王が浴室に立っていた。手を合わせ、チーンして、そうして初めて湯に入る。熱めの湯に浸かりながらふうっと息を吐き、別府の朝が始まった。






不動明王の足元には御酒や青々をした榊の葉が供えられている。私は余所者の旅行者ではあるが、地元の方が入る共同浴場に浸かり、不動明王に敬意を払って拝めることに一つの嬉しさを感じた。






続いては鉄輪むし湯。地中から噴き上がる蒸気の上に石室を作り石畳の上に薬草を敷いた、簡単に言うとサウナの凄いバージョンである。有名観光地だが別府に来たからには入ってみたかったやつだ。まず身体を綺麗にして普通の湯舟に浸かった後、スタッフの指示で石室に入る(写真左側)。小さな木戸を開けた先は狭く薄暗い石造りの室。そこいらのサウナとは比べ物にならない熱さの中、中腰すら出来ない低い天井に頭をぶつけないよう四つん這いになり、奥まで這い行って石菖の敷かれた上に仰向けになる。背中にゴワゴワした草の感触を受け石菖の良い香りが鼻腔に漂った。しかしスタッフより木戸が閉められると途端に恐怖を感じた。手を伸ばせば天井の狭所に閉じ込められて呼吸も苦しいような熱蒸気の中で過ごす。温浴施設というより拷問施設、或るいは処刑施設のようだと熱いながら冷や汗を流した。しかし、噴き出す汗を流れるままにして熱気に耐えていると次第に馴染んできたようで、熱くはあるが案外気持ちがよくなってきた。雑然と押込まれたような狭さも慣れてくると身体にフィットして寧ろ丁度良く感じる。そうして8分後、スタッフに時間が来た事を伝えられて石室から這い出る。希望があればもう2分延長できるが私はこの辺が限界だった。ぐったりとして脱力した身体の汗をカランで流ししばし休憩。普段サウナに入らない人間だからなかなか堪えた。しかし気持ちがよい。身体の濁りを全て洗い流した気分だ。これも満足し、湯舟に入ってから鉄輪蒸し湯を後にした。






身体はポカポカ、熱すぎるくらいなので湯冷ましに町を歩き回ることにした。幾つかの共同浴場を通り過ぎて、町に点在する地獄窯を横目に見て、別府の歴史を伝えるいろんな遺跡を見て、鉄輪地区を見渡せる展望台に向かう。途中道に迷って右往左往していると地元の方から行先を尋ねられ、分かりにくい路地の越え方を丁寧に教えてくれた。温泉入り、地元の人と会話し、そうして別府を感じながら展望台に着いた。町中に噴気が立ち上っているのが見える。観光客と地元民の会話を盗み聞きをして、遠くの山が禿ている理由も知った。どんどん別府のことを感じ、知っていく。ああ、私は別府に来たのだな。






普通はバスで行く距離だが、なんだか歩きたい気分だったので隣の別府八湯の柴石地区へ歩いて向かう。鉄輪から一時間以上も要したがこれも旅の一興、青空の下でロウバイがちょうど満開に咲いていた。






偏屈な私ではあるが普通の観光地も別に嫌いではなく、折角別府に来たのだからド王道の観光地、地獄巡りの全制覇をしようと思う。回数券を買ってまずは柴石地区の「血の池地獄」と「龍巻地獄」を見学する。特筆する点はなく、「まあ、こんなもんか」という感想だった。それにしても観光地は混雑している。半分は外国人、とりわけ中国人。耳に入る言葉は馴染みのない言葉ばかりでいつも間にか日本もグローバルな国になったもんだと驚いた。一方私は寂しきロンリー旅行者、騒がしい観光地に行っても一言も喋らず、写真撮ってくださいも言われず、写真撮ってもらえませんか?も言わず、ただ黙々と見て回り、物思いにふけってただ歩き続ける。誰がどんな観光しようと構いやしない、私は私の旅をするだけだ。






さくっと地獄を2つ見て回ったあとは柴石温泉で一つ温泉に入るとする。選んだのは長泉寺境内にある薬師の湯。龍巻地獄の引き湯であり別府では比較的珍しい酸性泉。長泉寺の境内に入ると左手に薬師の湯と書かれた扁額が見えた。コンクリート製の簡素な白塗りの小屋を覗くと誰も居らず、床が完全に乾いているところを見るに先客はしばらく来ていないようだった。左手には1m×2m程度の石造りの湯舟に湯が絶えず注がれている。右手には壁に埋め込まれた木棚が6つばかりあり、白や青や緑の褪せた色をしたプラカゴがそれぞれに収納されている。そして足元には簀の子が敷かれ、湯舟と脱衣所が同一空間になっていた。温泉本によると「入浴の際はお寺の住職さんに声をかけるように」と記載されていて、一旦温泉の小屋から出て寺務所に向かった。インターフォンを押すとお寺の方がいらっしゃて、温泉に入りたい旨を伝えると慣れた様子で名簿に名前を書くように促された。料金は気持ちを賽銭箱に入れてくれとの事で、記名後は本堂に出向いて薬師様に挨拶し、他の共同浴場と同程度の硬貨を賽銭に入れた。






この日はカラッと晴れて1月の小春日和だった。柔らかな日差しが窓の植物を鮮やかな緑を透かし映し、反対側の入口扉から風が吹いて抜ける。湯は茶色く濁った酸性泉、見た目の割りにさっぱりとしていて、事前情報では熱々の湯加減は思いのほか適温、ゆっくり肩まで浸かって息を吐く。浴槽の周りには水が入ったバケツがいくつも置かれていて、湯が熱い場合は湯舟に投入して冷ますための代物らしい。だが中身は実な水ではなく冷えた温泉、だから加水しても温泉が薄まることはない。そして冷えた温泉を使用したら再び温泉を汲んで冷ましておくというのがルールだ。同じ別府内でもそれぞれの温泉に個性があってとても面白い。男湯も女湯も区別なく中が丸見えの開放的な湯舟、火照った身体は風に撫でられ心地よく、ずっと永遠に入っていられそうに思える。入口のお地蔵様も見守ってくれている。地獄の地で、私は極楽をみた。

つづく






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