2019年6月15日

別府湯治の旅①



去る1月、仕事が終わって夜の内に東京に向かい、漫画喫茶で仮眠を取り、朝一のフライトに間に合うように羽田に向かう。早朝の羽田は静謐とし、旅行者でごった返す普段の様子とはまるで違っていた。






毎度の事ながら、離陸の瞬間はクールを装いながら実は高揚していて、窓際の席の私は朝日が昇る前の澄んだ空をずっと眺めていた。他の旅行者は飛行機なんてさぞ乗り慣れているのだろう、パソコンを開いてキーボードを叩く人、静かに本を読む人、アイマスクをして早々に寝る人、窓の外にはみんな興味無いようだった。ちょうど富士山が見えた頃、私はカメラを取り出して数枚写真を撮った。それに気が付いたのか、隣の席のマダムも、更に隣の席のオヤジも、チラチラと窓に目線を向けている。そうだよなぁ、景色が全く気にならない人なんていないよなぁ、と私は少し安堵しながら、富士山が見やすくなるよう座席に深く座り直すのだった。
そうこうしながらもスカイマーク001便は無事に福岡空港に到着した。今回の旅は大分に3泊、福岡に1泊、合わせて4泊5日のひとり旅。宿の他は全くのノープラン、事前調査もしてないから何処に何があるかも分かっていない。取り敢えず地下鉄で博多駅に移動し朝メシを食べようと駅前の通りに出てみるが、思いのほか無機質で都市的な、私にとっては面白味のない光景だった。観光案内所を探すがどうしても見つからず、いよいよ嫌気がさして博多を離れ小倉に移動した。






私は観光案内所が好きだ。右も左も分からぬ町で、観光案内所で貰った地図を見ながら気ままに散歩する、これが旅の醍醐味。そうして小倉駅の観光案内所で地図を貰って町へ繰り出した。まずは小倉城を目指す。博多で食べ損ねた豚骨ラーメンを食べたいなと、商店街で朝メシ場所を品定めしつつ、気がつくと小倉城に着いた。一通り見て周り、帰りは遠回りをしながら小倉駅に戻る事にした。
通り道の神社にも立ち寄った。平日の福岡は外国人観光客が多いようで、境内には私と中華系の家族が一組いるだけだった。簡単に参拝を済ましていると中華系観光客に「カメラ・・・」と話しかけられた。別にここは有名な神社でもなく何もこんな場所で集合写真撮らんでも・・、と思いながらも「おっけーおっけー」と二つ返事でカメラを引き受け、拝殿をバックにズームで撮ったり引きで撮ったりした。「謝謝!」と笑顔でお礼を言われ私も嬉しくなる。






小倉城を離れ、来た道とは違う道で遠回りしながら駅へと戻る。大通りを避けて細い路地を選びながら歩いていると何やらレトロなコインランドリーを発見した。しかもどうやら現役らしい。コインランドリーの場所からは人しか通れないような細い通路が、水路を渡って巨大なバラックに呑み込まれる形で伸びている。通路の先は暗くて窺えず、果たして余所者が入って良い場所なのか不安に思いながらも、一人のサラリーマンが暗い通路の先へ消えていくのを見て、私も意を決して闇に呑まれていく。






驚愕した。日本にこんな場所が残っているのかと。昭和レトロと言うには生易しい、言い方は正しくないがスラム街のような怪しい様相を見せている。細部を見ればまた顕著であり、空調配管や電気配線が無節操に絡み合い、ベニヤやトタンで継ぎ接ぎだらけの建造物は下段キックで倒壊してしまいそうである。例えば一本の通りに古い商店街が形成されるならまだ分かるが、ここは増築や改築を際限なく秩序なく繰り返して巨大となり、通路は毛細血管のようにあちらこちらに伸びている。航空写真で見たら一つの工場のように見えるだろう、しかし一歩踏み入れると異様な光景が広がっているのだ。






ここ旦過市場は観光地化もされているようで、市場の中でも中心街は地元民や観光客で溢れている。私はちょっと遅い朝メシを食べようと目に付いた店に転がり込み、混雑した店内でメニューを見ながら得体の知れない「ぬか炊き定食」を注文した。
ぬか炊きとは鰯の糠みそで炊いた物らしい。いやこれも美味さに驚いた。旅で地のものを食べる補正が掛かってるにしても、それを抜いた上でとびきり美味い。そして小鉢の一品一品もめちゃくちゃ美味く、九州に上陸して初めての料理がこのレベルとは、これから先の旅でどんな美味し物が待っているのだろうかと心を踊らせるばかりだ。混雑した店内にはお姉さんが仕事前に来たのだろう、イライラいながら「おばちゃーん、まだー?(福岡訛り)」などと忙しなく確認し、ついには「仕事間に合わんけん行くねー、ごめんねー(福岡訛り)」と去っていってしまった。そして右側を見れば中華系のソロ旅人が山盛りのおでんを食べている。これはメニューが読めないから店先で煮込んでるおでんを見て指差し注文したからでたり、おでん単品の山盛りはあまり美味しそうに見えなかったが、彼にとってはこれも異国の思い出になるのだろう。私にもそういう経験がある。ともあれこれも旦過市場の日常風景、ここで過ごしたひと時は大満足、いや超満足だった。






福岡小倉からは特急ソニックで一気に大分別府を目指す。走り出して間もなく、車窓の風景は一気に長閑なものに変わった。私は読みかけの小説を取り出し、窓の景色に時折視線を送りつつ、手元の文庫に目を落として過ごしていた。 しばらく経ち、車窓の風景で別府に着いたことを悟った。緩やかな斜面の町並みの、いたる場所から温泉の噴煙が立ち上る様子を確認できた。私は雑踏に紛れ別府駅の改札を抜けた。いよいよ念願の別府だ。

つづく






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